※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます
2023大手仁・大山恵美子展によせて 平松朝彦
まずこの展覧会の副題のシンボリズム(象徴主義)について。ウィキペディアによると19世紀後半のフランス、ベルギーで起きた芸術運動(*)のこと。ベルギーの歴史ある町、ゲントの美術大学に留学していた大手仁氏は当地で様々な象徴主義を体験され、一方、大山恵美子氏もフランス、ベルギーでの様々な生活体験でそうした文化の影響を受けられたのだろうか。今回の作品であえて言えば、大手氏の装飾的なインテリアデザインの建築物やクラシックなシャンデリアの装飾の版画のほの暗さ、大山氏は版画の一部にみられる草花(アイリス)の装飾に現れている。
まず、入口の大山氏。「うつりゆく時代の表現」がテーマであるの部屋の手前の左の壁にはデッサン力を感じるリアルな若い女性たちのソフトエッチングの作品が並ぶが、それぞれの画面には多数のエッチングが複雑に配置されている。それらは後述する大手氏の版画作品の複数配置の考えと同じだ。一方、左奥、正面、右の壁には幼い子供たちの姿が、まるで子供が描いたような(あるいは新表現主義のような)タッチで並びとても同じ作家の作品とは思えない。子供の絵は正面がアクリル絵具で他はモノタイプ版画。右の壁には14枚が並び、元気な声の満ちた保育園の中にいるような錯覚に。子供の大きな目は無邪気で純真な心が現れる。それが10年たつと左のように皆、スマホを見続ける少女になる。それは特に日本にそうした現象が多いのだが、それが現代の日本というバーチャルな社会、時代を表すのだろう。さらに展示室の一画には、陶芸による羽根のある天使の描かれた十字架。これらも象徴主義を暗示。面白いのは、一つの頭部に二つの顔がある頭像。陶芸によるトンボ玉のネックレスの小品群が飾られたが、その中には、新コロナ感染除け(?)の江戸時代の妖怪アマビエを発見。まさに現代。
奥の部屋は大手氏であるが、テーマは「光、水、大地」。入って左は繊細なアクアチント、メゾチント、エッチングの技法を駆使した版画。対照的に他の3つの壁面にはラフなタッチの具象の油絵でこれも一人の作家とは思えない。最初の版画では、暗い空間の中で光るクラシカルなシャンデリアとやはりクラシカルな装飾、石像に満ちた室内が描かれる。さらに続く6点は荒々しいコントラストの強い海の波と水等のコンビネーション。海景はモノクロであるが水は抽象的な緑や青。続く正面の「Into
the forest」等の3点の鬱蒼とした森の中の光り輝く川の水面はドラマティック。晴天なのに雨が降り、それに太陽の光が反射しているような一瞬の不思議な光景。印象派のクロード・モネやオーギュスト・ルノワールも木漏れ日をテーマとしたが、カラフルな光のシャワーの表現は、彼らよりも強烈だ。光を表す色は油絵具なのに水彩のようにスムーズで透明感がある。作者に尋ねると意図的に絵具を選んでいるとのこと。さらにその筆遣いは従来の油絵と違う。その理由を推測してみた。大手氏の母は書道家ということもあり、大手氏は幼少より筆をとり書や水墨画を描いたそうだ。そのためか日本の筆のタッチを彷彿とさせる。
さらに右側の作品になると大地を強く意識させる風景画が現れる。それらはルネ・マグリットのようにシュールな趣がある。思えばマグリットはベルギーの画家だった。さらに右横の壁には二つの鷹科のノスリの作品。ノスリはお二人が住まわれている群馬の農村部でよく見られ、実物を観察して描いたという。かつて近世の画家たちは好んで勇壮な鷹図を描いた。そのイメージと重なる現代の鷹図。そして最後は空中に漂うかのような女性の服。それはマグリット風だがやはり独特の光のシャワーがある。
お二人の作品は最新の現代美術として外国のギャラリーに展示されて違和感はない。
一方、お二人は農家もされていて、「光、水、大地」は自身の大地に根差したライフスタイルにつながるテーマである。今回の二人展は二人の作家の多様性を表すものであり、見ごたえのある展覧会だった。
大山 恵美子 展
「空に向かって」
49×32 (銅版画)
「The moonlight night」130×90(ソフトエッチング)
「スイートメモリーSmartphone party」90×130(ソフトエッチング)
「未来への伝言Ⅱ」74×56
(ソフトエッチング)
「キッズ天国21(92×72)、22、25(90×60)、24(103×73)、23(90×60)」(アクリル画)
「キッズ天国8、9、10、11」110×70(モノタイプ版画)
トンボ玉ネックレス 上「アマビエ」
大手 仁 展
「Light ultramarine violet」70×92(メゾチント)
「Eyes from the decorative wall」70×92(アクアチント)
「Water」106×82(メゾチント・コラグラフ)
「Sky and sea」107×82(メゾチント・アクアチント)
「我が心を空に放てば」88×111
(メゾチント・アクアチント)
「Into the forest」1 32×162(油絵)
「Into the forest- River」132×162(油絵)
「On the river光の旅」112×145(油絵)
「Distance」130×166(油絵)
「From the sky」80×100(油絵)
「Standing bird 2、1」65×53、72×60(油絵)
「Blue dress」116×90(油絵)