※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます
2023.7/6~23 鶴巻美智子展
鶴巻美智子展に
宇フォーラム美術館 館長 平松 朝彦
これらの作品はまさにカラーフィールドペインティングだ。鶴巻氏のイメージカラーであるグレー系が11点の他、赤と黒と淡いピンクが1点ずつ。グレーも明るい物からやや暗いものまで様々。地味であるグレーがテーマの画家はあまりいないが抽象絵画において色が重要であることはいうまでもない。F150が10点、F130が3点、F100が1点。油絵具にもかかわらず薄塗りということもあり下地の色がやや透けて見える。構図はシンプルで基本は縦線。作者の解説によると「最初は具象の人物像から始まり、それが鏡に映り、鏡が縦に割れて次に人物が消滅し、何もない縦線の空間が残った」のだという。この構図は、鶴巻氏独特のもの。見方によっては白地のカーテンを隔てて外の世界があるような解放感。あるいは昔のモノクロテレビのブラウン管の何も映っていない画面の色。何かがあるような、ないような。この展覧会に来られた観客はそれぞれ何を思い浮かべるのだろうか。
技法の特徴はスピード感のある刷毛さばき。大きな刷毛で描かれる絵画のスピード感は爽快だ。一世を風靡したカラーフィールドペインティングのカリスマ、マーク・ロスコも刷毛で描いているものの、彼の画面にはスピード感はなく、むしろ静止している。
もう一つの特徴は絵の側面に朱色(正確には自分で調合したオリジナル)が塗られていること。この朱色はキャンバスの地色として塗られているようでそのためグレーは無機的ではな温かみがある。額はなく、キャンバスは木縁の裏で止められている。実際に、会場で観る時は正面以外でもその色が見えてしまう。だからその絵の印象はグレーと朱色。しかし正面から見ると朱色は見えず、作品のイメージもまったく異なる。グレーなのか、グレーと朱色なのか、この作品をどう評価するかが問題。横の部分も作品ということであればこれは平面作品ではなくなり立体作品となるのだが。
Work1、Work2は表面に薄く縦ラインの模様があり、透明感もある。奥の部屋の正面の一番明るいグレーのWork5は写真ではわかりづらいが微妙な光のニュアンス。Work9の赤の作品はビビッドなつやのある赤。これは元気のある時に描いたというが確かに見ると元気になる。ところが不思議なことにこの絵具の特性なのか斜めから見るとその赤はマットで少し薄くピンクがかって見える。Work10の黒の作品には様々の色が混ざっている。具体的には上部の2cmくらいは濃い青。しかし写真では判別できないだろう。この絵もやはり側面は朱色である。
作者が言われていたのは、この会場の空間と絵の一体感。展示空間が違うと絵のイメージが異なる。あらためて展示空間の重要性を感じた。あのロスコは自身の絵を展示するためロスコ・チャペルをつくるが著名建築家のフィリップ・ジョンソンの設計が気に入らず途中で変更させたほどだ。日本では住宅環境もあり抽象画の大作はなかなか描くことも見る事も出来ない。もしも今回の大作群をチェルシー地区の大きな画廊に展示したら、アメリカ人画家の作品と信じて疑わない。日本の現代抽象絵画のレベルを提示している。
work1 (F130)
Work6 (F150)
Work7( F130)
Work8 (F150)
Work9( F150)
Work10 (F150)
あえて左側面部も撮影
Work14 (F100)
作品 部分
作品 部分