めざめ

※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます



 

10月12日(木)~29日(日) -めざめ- 

・池田 緑 Silent Breath -沈黙の呼吸- / 田中 康予-過去と未来をつなぐ-

(平松館長解説)
池田氏は、各国でパフォーマンスを行っている現代美術家。今回の「沈黙の呼吸」は偶然、2001年にマンハッタンの田中氏のところに、海外派遣芸術家制度で滞在していた時に遭遇した9.11同時多発テロについてのビデオ作品。事件の2か月後に、NY市民36人にマスクをしながら感想を語ってもらうというビデオパフォーマンスを行い、2017年に、彼らが語った言葉をビデオ映像化し、会場の壁に投影した。「恐怖、人類の恐ろしい過ち、無力」などの言葉が地面から立ち上り、地面に戻っていく映像作品だが、「”地”から出た言葉は、”地”へと還り、そして再び”地”から出でて”地”へと還ります。決して止むことはありません。同時多発テロから、いやそれ以前からの、今に続く、「人間の行為」の象徴として、未来永劫、反復を繰り返す」ことを示したもので、言葉のビデオ化及びデジタル化された画面の動きはユニークで秀逸。ある人は館内の床に座って、壁に投影された巨大なビデオ映像をずつと見ていた。最近、こうしたイメージのアート作品を見ることがあるが、当時は珍しかったと思う。
今回、その署名入りの36枚のマスクも展示すると同時に、希望者に配布された余ったアべノマスクを使い、来場者の人にサインをしてもらうというパフォーマンスを実施した。そもそもマスクを使ってのイベントは、環境汚染に対するパフォーマンスが始まりだった。さらに2020年に始まった新コロナウイルスパンデミックは世界の人々がマスクをする状況となった。2015年に発刊された「マスクをかけた世界のまち」の中に新コロナウイルスのことが予言のように書かれていて驚かせる。その他、2023年の帯広市民ギャラリーにおける池田緑展のビデオ映像を会場の壁に投影し、かつての環境問題提起のマスクを版画にした作品も4点展示した。
田中氏は日本で映画制作会社にいた後、1994年以来、ニューヨークに居住し、アートステューデントリーグで版画を修得したアーチスト(版画家)である。環境問題に関わり、最近では同時に原爆、原発、難民をテーマとしたワークショップ、社会活動にも取り組まれている。具体的にはニューヨークの芸術家助成金を得て、地域住民との共同作業を取り入れたアートプロジェクトやマンハッタン計画が行われた地域の歴史の勉強会を実施した。
会場では写真と薬玉(くす玉)の展示をした。薬玉とは、古来の日本に伝わる厄除け的意味があり、今回は新コロナの収束を願うものでもある。写真は難民、原発事故、9.11、原爆開発(マンハッタンプロジェクト)などの社会的テーマと、平和と調和の未来プロジェクトとして薬玉の制作のワークショップを行った。ビデオでは、ソーシャルエディケーターとしての活動報告、及びアメリカにおける生活の紹介など多岐にわたる。特にコロナ禍でワクチン派と反ワクチン派の分断、さらに情報に対する疑義を提起されている。写真の総枚数はA4サイズ115枚に及び、それぞれ貴重な資料。田中氏の写真はテーマごとにまとめられていて一つの絵のように見える。絵画の原点は人に何かを伝える事。そうした意味では今回の写真展はまさに絵である。平和への祈りを込めた「薬玉(くす玉)」は、板締め絞り染めされた和紙ならではのカラフルなグラデーションができる。それはかつての日本が持っていた繊細な色と形の美意識に通じる立派なアート。世界の中の日本を感じることが本当のインターナショナル。具体的には正方形の紙を折っていき花ができるがそれをたくさん球状にまとめて出来上がり、展示室の天井から20個以上吊り下げインスタレーションのようになった。多くの人の共同作業によりそれが完成するというプロセスも面白い。
今回、数回のビデオを交えたお二人のアーチスト・トークを複数回、実施した。日本人が、マンハッタンの中心でソーシャルエデュケータ―として社会活動を行っていることを知り、驚くとともに敬意を表する。さらにその一つのテーマが原爆開発のマンハッタンプロジェクトである。ヤルタ会議の写真もあり子供の勉強の領域とは思えないが、こういう自主的な勉強が求められている時代なのだ。日本でもテレビで世界を知ることはできるがニューヨークでの危険でもある生活の報告会は日本の人々にはなかなか刺激的。
池田氏の作品も、田中さんと同様、問題を提起し、あるいは、人に何かを伝えたい、ということが原点となっている。人々は理想主義と現実の狭間で行動しているが、多くの場合、日常生活の中で理想を忘れがちである。アーチストはさらに純化した想い、メッセージを作品化する。アートと社会活動は、ドイツのヨセフ・ボイスの例があるが、アートを通じて、人々にメッセージを送るアートの例としても今回の展覧会は刺激的で意味があった。最終日には皆さんによる「未来への手紙」の紹介、ヤジマチ サト氏「万葉五色」の映像作品の放映と越智信一郎氏による能の舞(音楽「荒城の月」)が披露された。展覧会が終わり外に出ると、見事な満月が空に浮かんでいた。展示について友人たちに手伝っていただき、様々な方々のご協力に感謝します。

① 池田 緑 Silent Breath -沈黙の呼吸-
「地球の環境汚染を憂え、ひとりのアーチストとして少しでもその進行に歯止めをかけたい」との願いは、「生命の源が呼吸であることを喚起し、さらに呼吸から派生する様々な現象-人間の存在そのもの、人間が人間の呼吸を奪い支配する行為も含む人間のあらゆる行為、全生命に早晩訪れるであろう生命の危機-について再考察する」とまでその範疇を広げていったのです。
映像作品①「言葉Silent Breath,2001 New York(2017) 約36分」2001,10.11に撮影。9.11同時多発テロについて市民36人の発した言葉(英語)と日本語が組み合わさり画面の地から立ち上がり、地に戻る。②「Silent Breath,10/11/2001 NYC(Hand Movement)約4分」2001に撮影、手の動きで表現。③「Silent Breath,10/11/2001 NYC(Speaks)約5分」2001に撮影。言葉で表現 ④「Silent Breath,10/21/2004 NYC(Speaks)約5分」2004に撮影。③の四年後にその出演者に再び言葉で表現してもらった。

② 田中 康予 -過去と未来をつなぐ- 
何を体験するために、私達は今、ここにいるのか? 時代の変革期の中で、自分の経験を振り返り過去を見つめ直し、その記憶の点と点をつないで線にする。その線となった、行く先をつないで面にする。それぞれの個人の体験とその記憶の集積から、時間を超えて視えてくる、未来の形をみんなで作るために。


左より、田中康予、池田緑各氏


展覧会場1(田中康予)



薬玉

版画作品 池田緑


NY市民36人の署名入りマスク


映像作品 ②


映像作品 ①




アーチスト・トーク、ギャラリー・トーク


池田氏によるニューヨークのマスク
パフォーマンス写真撮影の様子

田中氏のニューヨーク生活ドキュメンタリート

薬玉の折り方ワークショップ



マンハッタンプロジェクト