彼岸にたつ

Creative space2022宇フォーラム美術館賞 
玉田光子 受賞公演「彼岸にたつ」
-煩悩に苦しむ現実のこの世を意味する此岸の岸「此岸」に対し、修行によって迷いを脱し、此岸の岸「彼岸」であった。彼岸(極楽浄土)は西方の遥か彼方にあると考えられていた。春分と秋分には、太陽が真東から昇り真西に沈むので、沈む太陽を礼拝し彼岸を想い、極楽浄土に生まれ変わることを願ったのが始まりである。- (リーフレット引用)
演目 第一幕 ヒガンニタツ 「死出の旅にて流れ着く そこは暗く孤独な惑いの世界」
第二幕 ヒガンヲタツ「暗く苦しい惑いの中に光が差す それは新たな命の始まり」

協力スタッフ: 音響/ 河田康雄 衣裳/岩戸洋一・本柳里美 映像・装置/鈴木明日香 舞台美術/長谷川嘉成(アトリエ創屋) フライヤー/長谷川嘉成(アトリエ創屋)

第一幕 最初は暗闇から始まる。女性が壁に寄りかかり立ち上がる。メトロノームのようなリズム音が刻まれる。プロジェクターによる雲の光景が壁二面に広がる。ほぼ同時に、それが映る壁を彼女が手で探る。嵐の雲に、さらに不気味に雷が光るように見える。写真と思われるほどのリアルな空の絵を描きこんでいくごとに写真を撮ることによりスライドショーのように変わっていく。そのスライドショーには機械的な音、音楽が挿入されている。場面が暗転した後、手前の仕掛けがライトアップされる。天井には白い流木が組まれたオプジェがあり、その真下には、円形の白い砂があり、その中に、白い流木で組まれたオブジェ。あるタイミングで天井から細かい砂が砂時計のイメージで落下。ダンサーはその周りで踊る。音楽、あるいは様々な金属の打撃音が続くが、パーカッションによる前衛ジャズ風の演奏にも聞こえる。音はその場で誰かが演奏しているかのように非常に鮮明。
第二幕。
観客は隣室に移動。女性は手前の部屋との境界に倒れている。後ろの部屋から光があてられ、それが薄い服を透過してきれいに光る。空間と光の演出。その薄い服を脱いで黒のワンピースだけとなるが、その服にはスリットが横と背中にありスリリング。天井には先ほどとほぼ同じ白い流木が組まれたオプジェとその真下には、水を満たした白い砂利が敷かれた円形の水盤がある。水滴がほぼ一秒間隔で落ち微妙な水滴音も聞こえる。水盤に横からライトの光が投射されると、波紋がひろがる水面の様子が美術館の壁に映しだされる。しばらく舞った後、その壁の手前に横たわり、手を伸ばすと、その手先が壁の水盤の模様と重なる。最後にまたリズム音がして、彼女はその周りで舞い、水の中に手を入れ、足を入れ、その場に座り込む。



玉田光子公演 -彼岸にたつ- 平松朝彦
この公演は、クリエイティブスペース2022の宇フォーラム美術館賞の受賞公演として開かれた。丁度、この時期は彼岸の季節で、街中の地面にもいつの間にか彼岸花が咲いている。白い砂と水で満ちた白い砂利は浄土を表しているのだろうか。白い砂は禅的な静かな世界、幽玄な世界であり、日本独特の精神世界を表す。今回の企画はダンスを超えて日本の美意識の表現というイメージだが、空間、光、音楽、効果音を究めて高度のレベルで作りこんだ作品であり、玉田氏はダンサーだけでなく、脚本家としても優秀だ。
さらにこの建物の空間の特質を良く生かした設定は、空間デザインを手がけた長谷川嘉成氏の力でもある。長谷川氏は舞台だけでなく、展示室の入り口には大きな壁がしつらえ、それは光を遮る仕組みとなっているが、その裏には赤い彼岸花と白い砂利が。さらにパンフレットやチケットの秀逸なデザインを手掛けられた。
そもそもこの宇フォーラム美術館賞はこの空間をどのように生かすかということもポイントであった。今回は前回の短時間だった舞台がまったく異なる本格的なものとなった。天井からスポットライト的に光を当てたり、二台のスタンドライトを使ったりしたが操作に人手がかかるが、それらについて坂本秀子スタジオメンバーのご協力をいただいた。
宇フォーラム美術館賞としては第一回目の公演であるが、きわめて高いレベルであったことに感謝している。
今回の舞台は、照明、プロジェクター映像、衣装、そして主催者、現代舞踊協会の多くの方のご協力をいただいたことにも感謝したい。













会場入口裏

会場入口のパネル

中央、玉田光子氏