-信州からのメッセージ 版画9人展 北野敏美と仲間たち-

※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます




4月18日(木)~5月5日(日)-信州からのメッセージ 版画9人展 北野敏美と仲間たち-
・北野 敏美 ・安藤 睦子・梅田 蓉子・尾曽 美和子・柄澤 博章・小島 敬介      ・波岸 祥子・波岸 康幸・樋口 典子
ギャラリートーク4月21日(日)14:00~
北野氏が住まわれている飯田市は自然豊かな町だが、氏の作品は信州というより都会を感じさせるところが不思議である。今回、展示室には精緻な銅版画の原板と様々な制作に使われる道具が展示されたが版画はやはり勤勉な人向きだ、と感じさせる。展覧会の題名は「信州からのメッセージ」であるが、ローカルという印象はあまりない。信州の人は進取の気性と勤勉性が特徴なのか、池田満寿夫は長野市育ち、草間彌生は松本市生まれで二人とも海外に目を向け渡る。北野氏も長年にわたり様々な版画の国際交流展に参加し、さらに国内での国際展の開催に関わられてこられた。弟子たちも師をならい多くの国際展に入賞、受賞されるなど活躍されている。
頂いた資料の経歴を整理してみると8ヵ国。国際文化交流そのものだ。「スペイン/・カダケス国際版画展: 安藤、樋口、波岸(康幸) ブルガリア/・カザンラク国際小版画展: 北野 ・レセドラ国際小版画展: 安藤、尾曽、波岸(祥子)、樋口、小島、梅田 ・ヴァルナ国際版画ビエンナーレ: 尾曽 トルコ/・イスタンブール国際版画トリエンナーレ: 尾曽 リトアニア/・ヴィルニュス国際小版画ビエンナーレ: 尾曽、梅田 ポーランド/・ウッジ国際小版画展トリエンナーレ: 安藤、尾曽 ・クラクフ国際版画ビエンナーレ: 北野 旧ユーゴ/・リュブリアーナ国際版画ビエンナーレ: 北野 ウクライナ/・キーウ国際版画ビエンナーレ: 北野 エジプト/・エジプト国際版画トリエンナーレ: 北野 (順不同)」。一方、日本は島国であり極東の国というハンデキャップが昔から存在し、日本の美術界は世界とは少し別の世界で生きてきた。しかし版画は簡単に輸送できるため国際的な交流が比較的に容易であり、特にヨーロッパとの交流も活発だ。一方、版画の制作にはプレス機など機材が必要で個人では負担が大きい。さらに技術的な協力体制だけでなく指導者が必要となる。アメリカやパリでも工房が主体的な活動をする例がある。北野氏の作品は様々な版画の技術を駆使した教科書ともいえるもの。今回の作品は、大判のサイズやコラージュが展示され、さらに鉛の箔摺りという手法やモノタイプもある。参加者のおおまかな印象として、メカニックで精緻な抽象の尾曽美和子氏、小島敬介氏、緻密な光景を描く柄澤博章氏、スピリチュアルで情緒的な樋口典子氏、大胆な構図で植物の形態に魅せられた梅田蓉子氏、素朴な自然志向の波岸祥子氏、波岸康幸氏、身近な生活風景に目を向ける安藤睦子氏と多士済々。北野氏の作品は版画だけではないようで、まさに版画の本場である信州からのメッセージであった。
さらに多くの方が信州から訪れたがそれは北野氏の人望だ。今回、版画作家の望月厚介氏に北野氏を紹介いただいた。参加者の作品についてはさらに八覚正大氏からコメントを頂いたのでご紹介したい。

・版画9人展 北野敏美と仲間たち 
                      美術評論家 八覚正大
信州からのメッセージと副題のついた、なかなかの版画展を観させて頂いた。(敬称略)

北野敏美の作品
まず、奥の正面、聖なる壁に、堂々と三作が飾られていた。版画としては大きくかつ鮮烈だ。幾つもの賞を取られたという右の作品「A view-9303」は、信濃の山並みが遠くに見え、版の下地は何か木造校舎の壁、床を連想させる……抽象作品とはいえ、作者の成育した故郷、そして学業時代を連想させるような〈雰囲気〉がある。成績もよく品行方正、ある意味〈優等生〉であったのでは――そしてテニス部だったのだろうか、ボール三個ずつの並びが二列、画面は思い出の写真を重ねたように三層になっている。ただ、その中に実は波乱もあったのだと、飛沫のような波紋が見え、それは時の中に消化されつつも、感情の迸りのような背景の黄土色(赤ではなくセピア色的?)に込められているかのよう。過去の思い・情熱を技法と矩形の枠組みに収め提示する作者の姿勢がそんなことを連想させる。
左側の作品「With quiet movement-8903」は、やはり矩形を三層に重ねつつ、縦に並んだ三つのテニスボールが印象深く、その間をスルリスルリと縫うように走るストリングが実に人間の〈関係性〉を象徴させているような感覚……。ボールは丸いのに、切り取ったような鋭さがあり、しかしさらに近づくと、その表面はざらつきが刻印されている(あたかも遠くからは丸い月が、その表面には数多のクレーターが過去の経過を物語っているように)。
 中央の作品「Cityscape 光と風と-1223」こそ、作者が登り立った一つの頂点にも思える。やはり矩形が印象的だが、鋭角の面、波線も入り、作者はドリルで穿孔もしたようだ。見直すと、左の作品は上部の端を切り取っているし、中央の作品も四隅を小さく切り取っている……。知的構成、端正さ、鋭さ……それらの属性を自ら脱しようとする、隠された憧憬とも苛立ちとも熱意とも取れる、作者の意匠が込められた秀作群といえる気がする。
 さらに小品とはいえ、興味を惹かれる作品が、奥の部屋の半分を被っている。旋回する刃のようなもの。鋭いエネルギーをやはり端正さの中に封じ込めた緑色の作品にも惹かれた、竹林を刃が伐るような……。そんな中で、雪の残る畑地を描いた作品も目に止まった。そこにもボールと流線のテーマはあるものの、どこか産土を見つめ直すような感覚が……。
 言い過ぎを覚悟で喩えれば、作者は版画という手段を刀にした、自己に厳しい〈侍〉――のイメージが湧いて来た。

安藤睦子の作品
中々楽しい、メキシコ的雰囲気。作者は現地に滞在し、その雰囲気を……と勝手に思い込んだのだが、住まいの近くのお店の中だったとのこと。それはおそらく、惹かれた場の雰囲気への、同化力とも言える作者の想像感性の高さを示しているのでは。

梅田蓉子の作品
花を大胆に捉え、花びらのエネルギッシュな流動感に惹かれた。たしかにタイトルのような、イリュージョンを感じさせる。

尾曽美和子の作品
この作家は、色々な発想と、それを具現化する力を感じさせる。端正な技法の日本的なものも見応えは感じさせる。しかし、黒のとぐろを巻いたような抽象作品の回りに、素数を散りばめていたのには唸った。そして一番左にあった作品、扉を開けた向こうから、三角や四角や鎖、線の図形や得体の知れない塊が溢れ来る表現、これには魅かれた。ちょっとデューラーの「メランコリア」などを連想しつつ、これから鎖も(断ち切るのではなく)摂り込んで、どんな展開をされるのか楽しみである。

柄澤博章の作品
刻銘に丁寧に、公園や散策路を、その木立を淡々と描いている。光の表し方が絶妙だと感じる。ゆっくり丹念に長い時間をかけて制作されるとのこと、版画そのものに作者の人格が投影されているかのよう。

小島敬介の作品
この作者の抽象版画にも惹かれた。三本の柱、シリンダーのようなものの先は、朽ち破壊された壁、しかしそれがなぜか、金属の棒先に咲いた黒い花のように美しい。また切断された三つの横円柱が縦に並んだ作品、その立体感の輝きも美しいが、さらに一見端正なそれらが、近づくと表面にざらつきの模様が見えたり……これは北野作品のボールをある意味踏襲しつつ、円柱に置き換えるオリジナリティーと言える気がする。さらに、三つは三人の兄弟や友人を、シチュエーションを、さらに過去の記憶……などへと連想を促してくるようだ。

波岸祥子の作品
小品が幾作も並んでいる。顔は光の部分7、影3といった割合、それが人物像の陰影をすっと伝えている。クラシックな技法とは思われつつ、惹き付けるものがある。特に、チューリッブⅡと題された、ガラスのコップにチューリップが一輪生けられた作品は絶妙な耀きを放ち、可能なら頂きたい――という気持ちを起こさせた。

波岸康幸の作品
木版の作品、今回の展覧会で唯一色彩を奏でられていた。ゆったりとした植物の葉は、ある種こだわりのない包容力を感じさせた。

樋口典子の作品
今回の作家たちの中で、そのテーマ性において、異色なものを感じさせた。一人の人物が荒涼と広がる空間の中へ入っていこうとしている……作者はそのテーマの表現には行き詰って、街を描いたりも…と語ってはいたが、文学的感覚からすると、孤立感のあるそのテーマは、実際に何を経験されたかは措くとして、人心の深さを感じさせる秀でた感性が表されていると思われる。特に道があるだけの作品は、道そのものが人型に見えたりもし、興味を惹かれた。

このように改めて言葉に起こして振り返って見ると、なかなか才気を感じさせる〈仲間たち〉という気がしてくる。北野さんの自作に対する厳しい姿勢を侍のように喩えたが、彼は〈仲間たち〉には優しく面倒見の良い先生のように感じられる、つまり信州「北野派」は、両刀使いの師を擁した版画家集団であると、勝手に纏めさせて頂くことにする。(敬称略)
(写真の一部にガラスの反射があります。作品の記号はA:アクアチントC:コラグラフ E:エッチング M:メゾチントS:シルクスクリーン)

会場1

会場1 版画の銅板や道具の展示

会場2

北野 敏美

北野敏美 左より (ガラス反射あり)
「With Quiet movement-8903」111×139、(E+A+M+C+S)、
「Cityscape光と風と-1223」162×130、(E+A+C)、
「A View -9303」111×139、(E+A+M+C)、

北野敏美
「Desk esquis-2127」 70×88、(E+A+C)

北野敏美「A View-0308」 83×83、(E+A+C)

北野敏美「A View-2319 」 66×53、(E+A+C)

北野敏美「Rotation‐2302」51×5、(E+A/モノ)

北野敏美「Rotation-2315A」 
23×23、(E+A/モノ)

北野敏美 部分詳細
シルクスクリーン

安藤 睦子

安藤睦子「田園」 67×59、(E+A)

安藤睦子「ダーニング マッシュルーム」 85×66、(E+A)

梅田 蓉子

梅田蓉子「Flower illusionⅫ 」 70×85、 (E+A)

梅田蓉子「First light」 90×70、(E+A)

尾曽 美和子

尾曽美和子
「Strings 1702 」90×70、(E+A)

尾曽美和子「tangled 2023」
 90×70、(E+A)

柄澤 博章

柄澤博章「窓辺」 
45×45、(E+A)

柄澤博章「ひととき」 45×45、(E+A)

小島 敬介

小島敬介「三つの事象」 55×70(E+A)

小島敬介「深層の風景18‐01」 70×90(E+A)

波岸 祥子

波岸祥子「昔のあなた今日の君」 44×36、(E+A)

波岸祥子「チューリップNo.3」 44×36、(E+A)

波岸 康幸

波岸康幸「あおいりんご」
36.5 ×44 額 (木版)

波岸康幸「カモシカ」
 56×44 (木版)

樋口 典子

樋口典子「One Quiet night」 36.5×44(M)

樋口典子「Cross roadsⅦ」
74.5×56.5、(E+A+C)