※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます
2月27日(木)~3月16日(日)
-ENTANGLEMENT & APOCALYPSE-(絡み合いと黙示録)
ZAKIR SALAM & 尾崎悦子
ギャラリートーク3月1日(土)
今回の展覧会は、二人展というわけではないが知人同士で両者の共通点は馬、リぺル、画面の輻輳というか絡み合い、さらに画面の立体化がある。
まず、尾崎氏の題名の「黙示録(Apocalypse)」、「第七の封印は開かれた(The seventh seal was opened)」はいずれもキリスト教の用語であり、さっそくキリスト教の勉強と相成った。しかしそれは思いもよらぬ世界の暗示だった。
尾崎氏はクリスチャン系の学校で美術教育に長年携われてきた。西洋のクラシックな名画の数々は宗教の様々な物語の場面を描いている。当館にもフランスの教会で実際に使われた見事な大判の版画があるが絵と宗教は、かつては切っても切れない関係にあった。尾崎氏がキリスト教を信じているのかはわからないが、今回のこれらの絵にも確かに宗教性が漂っている。キリスト教の聖書によると天地創造から始まり終末信仰となるが、神の千年王国到来のためには世界が終末を迎えなければならないという。「第七の封印」の話が「ヨハネの黙示録」に書かれている。キリストにより七つの封印が開かれると様々の災いが地上に降りかかり、世界は終末を迎えるという。今回の尾崎氏の絵は、確かに世紀末の混乱と絶望の様相を漂わせている。悲鳴を上げ空中を舞う縞馬たちは人間を象徴しているのかもしれない。具体的には新コロナ、地球温暖化、食糧飢餓、各国で多発する山火事や自然災害。はてはロシアのウクライナ侵略、トランプ大統領のアメリカファーストや中国の核軍事化等により我々は、終末的危機の中にいることをあらためて感じる。この絵は果たして預言となるのだろうか。
次に話は美術的な観点に移る。リぺルアートとは水の作用を利用した偶然性により生まれる絵の具の流紋や自然の割れ模様を作り出す手法。かつて日本には和紙に明礬を使うことで、水をはじく琳派の「たらしこみ」の技法があったが、それと共通点がある。日本人は昔からそうした自然が作り出す微妙な景色に魅せられた。尾崎氏はリぺルアートの達人だが、もしかしたら新たな琳派の一人なのかもしれない。
また尾崎氏はそもそも本格的なシュールリアリズム派の一人である。それだけではなく、作品を異形に組み合わせたり、立体化したことがあるが、今回の試みもその延長線上にある。前回の個展でも透明の硬質ビニールに絵をプリントして作ったオブジェを絵に付着させたが、透明の下地の絵は発想の転換でもあるがその頭の柔らかさに驚く。作品番号H は写真ではわかりにくいが、画面の半分くらいにビニールのオブジェを張った絵と印刷が混在した意欲的な大作。
そして立体の骨がある「最後のダンスパーティー」のシリーズだが、骨格の標本見本を利用し、それにゼブラ模様を描きこんだ。さらに逆にそれを平面の立体的なリアリズムの絵としたもの(作品C)もある。そもそも縞馬の死体から始まった縞馬シリーズゆえ骨の存在は理解できるが、普通は思いつかない。尾崎氏の様々なアイデアや技法の開発に脱帽する。
次に、ザキール氏は、1978年バングラデッシュの首都、ダッカ生まれ。ダッカ美術大学の大学院を修了し、埼玉大学にて日本語を習得後、2010年から約3年間、東京芸術大学の油画研究室で学んだ経歴を持ち、現在、千葉県に居住しながら積極的に作品の制作発表活動をしている。尾崎氏とは、リぺルの画材を扱う渋谷のウエマツ画材の上田邦介氏を通じて知り合って今回の展覧会につながった。
ザキール氏の展覧会のテーマは絡み合いだが、馬だけでなく、男女を含めた絡み合いでもある。作者の若干詩的な文章から引用する。「複雑さと関係性、 男性と女性、
年齢から年齢へと、 欲望、欲望、欲望、 合併症に巻き込まれます。 愛と触れ合いを込めて、 解決策は でも、未知の空虚さ残り物? 絶え間なく流れる時間の中で、
再び恋に落ちる 永遠に動き、前進し、解決策は、愛の中で戦争をすることだ。( 訳は英語の日本語訳ソフトによるもので若干たどたどしいが)
作者はピカソに惹かれるというがその文章内容もピカソを彷彿とさせる。今回の展示では技法的にはいくつかのスタイルがある。まず、若干フランス的な抽象的なものから、ゲルニカに見られるピカソ風のデッサンスタイル、かつての具体の白髪一男を思わせるパレットナイフを使った情熱的な作品まで多彩。ピカソも情熱的だが、「わびさび」とは対極の異国の原色の世界である。さらに銀のペンを使ったスピード感のある大作スケッチも目を引くがその中にあるリぺルの模様が効果的だ。さらにレリーフ状に石膏を膠で固めて作った大作の馬。そして銀色の箔を使ったシリーズが新しい。さらに複数のレリーフの馬のピースを組み合わせて一つの大きい作品としそれに銀箔を張ったシリーズ。銀箔を張ることは、どういうことか。その物の存在は消えて、反射するものが見える。かつて当館で展覧会をした写真家の故・信原修氏は、自然の中の石に銀箔を張ったが、それはインスタレーションでもあった。さらにやはり故人となられた加藤義次氏の鏡面ステンレスの彫刻とも共通する。鏡面ステンレスは、周りの景色を映し出すと同時に自分の存在を消す。ザキール氏の作品に戻ると、その凹凸に照明の光が当たると、当然、光る部分と影の部分ができる。つまり凹凸感が強調される。それは立体派、つまりキュビズムであるといえないこともないが、そもそも立体なのだ。さらにいえば、尾崎氏の縞馬もまた結果的に物の立体感を強調させる。この展覧会の見方は様々だが、美術的には微細な部分に注目するのも面白い。

ギャラリートーク

尾崎悦子氏

ザキール サラム氏
・Zakir Salam 作者コメント
ENTANGLEMENT(絡み合い) and APOCALYPSE(黙示録)は、創造と破壊のサイクルに焦点を合わせた展覧会です。絡み合い(ENTANGLEMENT)は個人、社会、自然の間にある複雑な結び付きを探求しています。馬と女性をメタファーに、感情や記憶といった抽象的な力と結びついています。素材を通して、美しさと緊張感を浮き彫りにしています。
・Zakir Salam会場


作品一覧・A「Nature」 29×21三点・B「Entanglement 」(2022)98×150・C「Life circle」(2022)136×115・D「Entanglement
the exploring the equine echo in human bond」93×195・E「Entanglement in Motion6」91×73・F「Entanglement
in Motion7」91×73・G「Entanglement in Motion13」91×73・H「Entanglement in Motion9」91×73・I「Entanglement
in Motion11」91×73・J「Entanglement in Motion12」91×73・K「Earth of joy」91×73・L「Earth
in motion」91×73・M「Earth of joy2」91×73・N「Entanglement in Motion10」91×73・O「Entanglement
in Motion8」91×73・P「Entanglement in Motion15」91×73

B

C

Ⅾ



Ⅾの一部

Ⅼ

N

P
・尾崎 悦子 作者コメント
黙示録(APOCALYPS)は混乱や破壊の有り様をテーマにしました。縞馬を必ず入れているのはアラン・チューリング(英国の数学者)の反応拡散方程式(動物の模様の魔法の方程式)に感動し、加えて私達の心の乱れや偏頭痛の説明も出来る(山口大学、三池教授)としていることです。破壊と再生のサイクルが世界をどのように変えていくかを、少し大袈裟ですが、考えて頂ければ嬉しいです。
・尾崎悦子 会場


作品一覧・A「縞とapocalypse!! 1」・B「縞とapocalypse!! 2」・C「最後のダンス1」・D「最後のダンス2」・E「最後のダンス3」・F「最後のダンス4」・G「”THE
SEVENTH SEAL” was opened!! 1」・H「縞とapocalypse!! 3」・I「”THE SEVENTH SEAL”
was opened!!2」・J「”THE SEVENTH SEAL” was opened!! 3」・K「”THE SEVENTH SEAL”
was opened!!4」・L「”THE SEVENTH SEAL” was opened!!5」・M「縞とapocalypse!! 4」・N「”THE
SEVENTH SEAL” was opened!!6」・O「”THE SEVENTH SEAL” was opened!!7」

B

C

D

E

F

H

Hの一部

Hの一部

G

N