Creative space2025

●11月8日、9日 「Creative space2025」 
現代舞踊協会提携 現代舞踊新進芸術家育成Project2
令和7年度(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))
・alc.6%vol・小野陽子・河村百恵・冨川亜希子・anyK2 & m・加藤理愛
・林真生・山内梨恵子
企画プロジェクト統括 植木浩 総合芸術監督 野坂公夫 
企画・制作 芸術創造推進部 松永雅彦 能美健志 鈴木七重 明尾真弓 
協力 平松朝彦
スタッフ 音響 河田康雄 七澤速斗 舞台監督 能美健志 宣伝美術 
水内宏之  総務 波場千恵子 吉垣恵美

総評 平松 朝彦
今回、あらためて表現するということを考えさせられた。何を表現するのかが、特に戦後の現代美術のテーマとなっているが、モダンダンスも同様だ。表現者は常に、意識的に、無意識的に表現するものを探しそれを表現しようとする。それは芸術家の基本であり、そうした表現したい人たちの発表の場でありたいと感じた。
一方、美術館でのダンス公演は本来、建築設計としてダンスを想定していないので困難である。しかし舞台と観客が分かれていないことは、場の一体感を高め、濃密な緊迫感を生む。当美術館の展示室二つは変則的につながり、振付師としての工夫が必要となる。逆に観客にとって二つの部屋をどのように使うかも楽しみである。回を重ねるごとに能美監督による照明ワーク、ライティングも次第に凝ったものとなり、ダンサーの動きが作る影の美しさに目を奪われることが増えてきた。複数回出演された方々は、空間の使い方を含め、より洗練されたと感じた。
様々な公演を見るにつけ、その可能性と皆さんの創造力に驚かされるばかりだ。まさにクリエイティブスペースだと思う。コンペというより、新たな挑戦ができるダンスイベントと理解していただければ嬉しい。
今年の宇フォーラム美術館賞は「稲葉荘」とさせていただいた。その理由は、共同住宅の二室で繰り広げられる亡霊と入居者の物語という、思いもよらぬ発想だ。亡霊二人、入居者三人によるそれぞれのグループによるユニークなダンス、ポーズの決め方、亡霊と入居者の絡みの場面等、見せ方に工夫がされ、音、小道具などもまさに劇として考えつくされている。メーク、衣装、音響等が加わり、暗闇と光りの設定がそれを引き立てた。テンポの速い場面展開で予想できないドキドキワクワクの恐怖の世界が作られ目が離せなかった。少しエンターテイメントだったのかもしれないが、力の入った作品だ。alc.6%volが次回どんなものを見せてくれるかの期待感を込めて宇フォーラム美術館賞としたい。
以下は全体の講評。(写真提供 松永雅彦 一部画像修正 平松朝彦)

1. 冨川亜希子 「Nostalgia Tragedy」
「輝かしい過去は、いつしか未来を阻む重荷に。郷愁という名の幻が、変化を拒み停留する悲劇となる。」
振付・演出/冨川亜希子 出演/ Acco Dance(阿部沙耶、瀬崎宙乃、原みすず、山中芽衣、冨川亜希子)
リズミカルなパーカッション、重低音。奥の部屋ではいつの間にか、服の山が巨大化し、その中からダンサーが現れる。手前の部屋では服を選び、これではないとばかりに繰り返される切れの良いダンスに、もがき苦しむ様子が伝わってくる。輝かしい過去の象徴として服を使いダンスを作り上げる発想に、現在進行形の今を感じると同時に、大量の衣服が空間を飛び交うようすは、視覚的効果としても面白い。



2. 小野陽子 「応答なし」
振付・演出・出演/ 小野陽子
奥の部屋で、黒のネグリジェのような衣装でうずくまるシーンから始まり、ビバルディの四季の音楽がかすかに聞こえる。イスに触りながら激しく飛び跳ねる。人工的な音、重低音。次に暗い手前の部屋でスポットライトに照らされての演技。動きには緊張感がある。何かに対して「応答」がなかったことへのいら立ちが表現されていた。



河村百恵 「In the evening」
「日常の中で揺れる心。もうひとつの気配とともに、孤独と自由の狭間を踊る。」
振付・演出/河村百恵 出演/ シンジュホ 河村百恵 
想像であるが、彼と彼女と思しき二人の夕方のできごと。手前の部屋で女は黒いコートを着て横たわり、奥の部屋では男がリンゴをかじっている。音楽はメロディアスでリンゴをかじりながらデュエットで踊る。最後に女はふたたび最初の黒いコートの中に潜り込む。一方はイスに座りリンゴを齧り、他方は心の揺れを表現する対比に、日常のなんとなく意思疎通のできない孤独な二人の関係を感じた。



3. alc.6%vol 「稲葉荘」 
「ひとつ屋根の下で蠢く命と亡霊の物語」
振付・演出/ alc.6%vol   ・出演 佐藤静夏 白戸歩美 坂田佑香  吉田栄子 杉本咲野
テーマは稲葉荘なるアパートに蠢く亡霊たち。暗闇に、白の顔に墨の模様のメークの二人が登場。メークだけではなく、表情が鬼気せまる。不思議な不協和音。打音、低音。人の声。青い風船を持つ3人の女が立っている。二人は床を這いながら向かい合いポーズをとる。その間に青い風船を持つ女が割り込む。奇声、クラクション、などの効果音。最後に風船を床に置く。打撃音、そして風船が割れる大きな音。奥の部屋に二人がいて、一人は口から煙を吐く。ユニークなダンスを基にした完全な劇。観客はただ、目の前で繰り広げられる出来事に圧倒された。







4. 山内梨恵子 「星の手向け」
「星の手向け:七夕の別称 永遠では無い瞬間 愛しきものへの想いを音、空間、動きで表現した。」
振付・演出/山内梨恵子 ・出演/山内梨恵子 山内佑太(ピアノ)
タイトルの星の手向けとは七夕の事。奥の部屋では、茶色の生ピアノでリストの響きがしずかに始まるがビアノ演奏も特筆すべきだ。ダンサーは手前の部屋から現れ、壁に手をついてポーズをとる。光と陰の演出が美しく、のびやかで抒情的なピアノの曲想と合っていた。クラシックとモダンダンスの見事な融合。衣装も洗練され、観客は皆、演技に見入っている。すべてが申し分なく耽美的な世界ともいえる美しい時間となった。オーソドックスではあるが名作といっても過言ではない。



5. 林真生 「狭間」
振付・演出/林真生 出演/小林暖加 林真生
丸い金属のスツールイスの上でくねくねとポーズをとる。少し倦怠的な曲。二人で組み合うようにして戯れる。かくかくと首を曲げたり、腕をふりまわす切れのいい動き。壁の影もきれいだ。チェロの無伴奏バッハ組曲が流れ、それに合わせて踊るような動き。井上陽水のダンスはうまく踊れないという曲はあえて、ダンスというより動きを追求することによる選曲だろうか。演者二人は倦怠的な曲が流れる中、組み合うようにダンスを踊る。この二人の関係性「狭間」を表したのか。



7. 加藤理愛 「ドーナッツは泣かない」
「探しても探しても見つからない 抱きしめられても泣かない 愛だけがそこにある それは悪夢か宇宙かパラダイスか」
振付・演出/加藤理愛 出演/田中みさ 吉田渚 加藤理愛
三人三様の演技。両方の部屋で音楽なしではじまる。前半は奥で一人が踊り、さらにとうとつに昭和の懐メロのイメージの女性の歌謡曲が流れる。手前の部屋にはプラスチックの買い物籠を持ってじっと立っている白地に小さい赤玉のパジャマと、茶色の服を着て横たわる二人の若い女性。後半は買い物籠に入ったぬいぐるみをぶちまけ、拾う動作を繰り返す。必死に組み合い、表情も変えず無表情な人に何度も振り払われる。明るいネバーエンディングストーリーの音楽が流れる中で繰り広げられる。三人の関係性が一向に見えない中で繰り返し行われる行為はまるで不条理の悪夢のようだ。床に置かれた小さなレトロのラジオから、高市首相の憲法改正が必要という国会演説と、続いて日本の株が2000円暴落したというニュースが流れ、もしかしたら政治的なメッセージか?とも思う。世の中の様々な社会と、それらと同時並行しながら隔絶し、混沌とした個人の生活を表現したのかと感じた。



8、anyk2&m 「メッセージ」
構成・振付・演出/平多実千子 演出舗/平多利江
出演/荒澤来瞳 富田奈保子 鈴木泰羽 浮亀果歩 勝村あいる 平多実千子 北嶋愛季
奥の部屋では主人公が正座して墨で書く。書いたばかりの和紙を持ち踊る人や、それを次々に壁に貼っていく人、あるいは、くしゃくしゃにして捨てる場面も。主人公の苦悩や思いを綴った和紙には、「生きているから」「愛」「なぜ踊るのか」「空」「宇」「宙」などのメッセージが書かれ、次第に壁を埋め尽くす勢いで貼られて行く。考えると、絵とはメッセージであり、それを展示する場が美術館である。書のパフォーマンスを美術館で行うということは、井上有一などの例があるが、それをさらに壁に貼るというパフォーマンスはおそらく前例がない。その発想とアイデアに驚く。主人公の、思索、願いはそのまま文字となり展示され、観客に伝わる。まさに題名通り「メッセージ」そのものである。その中で、「なぜ踊るのか」という言葉があった。その答えは「踊りたいから踊るのだ」というように私は感じた。それを体現するかのように館内をダンサーたちは会場狭しとばかりに踊る。そのスピード感、技、美しさはそれぞれコンクールで受賞した力量を示している。奥の部屋では見事なチェロの演奏が始まり耳を奪う。さらにチベットシンバルという民族楽器の澄んだ響きが館内に響く。最後の白い菊を高く掲げて終わる。それは振付として完成している。一番重要なメッセージだと思える白い菊に込めた思いは果たして何だったのかと考えた。白い菊は花言葉でいくつか意味があり、そのため逆に何を象徴していたのかがミステリアスな印象になった。
尚、当日一人の演者が病欠し、本来の予定と変わってしまったと思われ残念であった。





謝辞
こうしたイベントは、多くの人の協力によって生まれた。公募から選択、運営など手間は、通常の公演と変わらない。当館にあった作品撮影用のスタンドライトを能美監督がたくみに操作し、音響の操作は今回、ラウンジから器用に行ったが、河田氏のセッティングと協力でなんとかこなした。この二つ繋がった空間をどのように使うかが振付にとっての課題となり、皆さんが挑戦してきた。舞台芸術としてかなり難関といえるのは、客席、客の見え方を想定しなければならないからだ。一方、美術館であるため舞台と客席が一体となるが、人をたくさん入れることができない。さらに一部の人はよく見えないという事態も起こる。今回もスタッフの誘導は丁寧で親切だから不満はなかったのかもしれない。裏方のスタッフの力がなければ一ミリも実現できない。皆様に感謝したい。